現場近くの桜は現在一分咲きといったところでしょうか。設計開始から約一年が過ぎ、「ながぬき庵」の完成が近づいてきました。登山好きな50代夫婦の終の棲家は、絶好の眺望と窓から見える丹沢の山並みのような屋根。樹齢120年の大黒柱に支えられたリビングは森の中を感じさせる癒しの空間です。
以下はお施主さんが贈ってくれた漢詩。
~廬を結びて人境に在り
しかも車馬の喧(かしま)しき無し
君に問ふ何ぞよく爾(しか)ると
心遠ければ地自ら偏なり
菊を采る東籬の下悠然として南山を見る
山気日夕に佳(よ)く飛鳥あひ与(とも)に還る
この中に真意有り弁ぜんと欲して已(すで)
に言を忘る ~
古詩十九首 飮酒 其五
訳:
隠遁して暮らす庵は、(それほど)人里から離れてはいない。(隠者は世間では人里から離れたところにいおりを結ぶそうだが、わたしは)人々が住んでいる俗なところに住まいを構えている。俗世間に住んではいるものの訪問客がしばしば来て、その乗り物の車馬の音が騒々しい、ということはない。どうしてそんなことができるのか。
心情、思想状況が超然としていれば(住む)地もヘンピなところになる。東側のまがきのもとで菊を摘む。
心はゆったりとして南山をながめる。
山の様子は夕暮れ時が美しくよい。
飛ぶ鳥が群をなして一塊りになって帰っていく。
この(自然の摂理の)中にこそ真実の姿がある。
言おうとしても、とっくに言葉を忘れてしまった。
掲載日:2009.03.27
K邸の現場回想記はこれにておしまい。