おおつ住宅工房一級建築士事務所

~現場回想記~I 邸

 サーバー移転前のブログを再掲載していきます。

~現場回想記~I 邸(30代子育て中のご夫婦)   #13 オープンハウス

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北風の冷たい週末でしたが、今回のオープンハウスには、
合計20組の方々にお集まり頂きました。

ご近所さんや、設計仲間、OB施主のSさん、Nさん、Gさん、次の施主のTさん、そしてタウンニュースを見て来てくれた方。貴重な時間を割いて見学にお越し頂き、
ありがとうございました。この2日間は、新たに完成した「愛すべき住まい」と共に至福の時を過ごさせて頂きました。

この家に明かりが灯り、一家の幸せな暮らしを感じたときが、私にとっても最高に幸せなときです。

まずは一通りの工事を終え、竣工を迎えますが、施主の家づくりはまだまだ続きます。数十年たって、生活の匂いが染み込み、ご家族も建物も成熟したときが本当の竣工といえるでしょう。
2037年頃の I 邸の姿を楽しみにしています。

 

Give me a winter. (私に冬を与えてくれ)
Give me dogs.      (私に犬を与えてくれ)
And you can have the rest. 

(あとは、おまえにあげる)~

愛読書の中のある探検家の言葉です。

私は今、そんな心境。

 

掲載日:2007.02.08

I邸の現場回想記はこれにておしまい。

 


~現場回想記~I 邸(30代子育て中のご夫婦)   #12 軒先の情緒

軒先の情緒
南側の軒先

大きく突き出た軒先は、夏の晴れた日には深い影を落とし、 厳しい夏の日差しを遮り、冬は低い日差しを 部屋の奥まで取り込みます。 雨の日に窓を明け、雨音を楽しむことができます。 軒先が生み出す暮らしの情緒は、少なくありません。

鎌倉時代の末期、吉田兼好という人が徒然草の中で 「住まいは夏を旨とすべし。」 と書いているのはあまりに有名。

言うまでもなく、「家は夏のすごし方を考えてつくるべき。」という意味ですが、 降水量の多い日本では、雨も無視できない要素です。 1年間で1mm以上の雨が降る日は神奈川県でも100日くらいあります。 つまり3日~4日に一度は雨の日です。 年間の降水量は熱帯地域とほぼかわりません。

敷地の広さ等、いろいろと制約のある中ですが、いかに雨の日に過ごしやすくするか、雨をいかに楽しくするかは、 日本の暮らしの大切なエッセンスです。



参考:「人生の教科書 家づくり:藤原和博著」


掲載日:2006.11.11



~現場回想記~I 邸(30代子育て中のご夫婦)   #11 上棟に思う

上棟作業
上棟の作業中

前日までの雨がうそのように10/7(土:大安吉日)は、
気持ちよい秋晴れとなり、またひとつ上棟の日を迎えました。当日はかなり暑くなり、大工さん達も高齢化しているせいか、午後の作業は急にスピードが落ちましたが、何とか怪我もなく予定した工程を終了。

 

”家づくりは聖職なり”という看板をどこかで目にしました。どんな会社かは知りませんが、この言葉には素直に共感します。今の世の中、聖職なんかどこにあるのか分かりませんが、一生に一度の家づくりを託された私達こそ「聖職」であるべきですね。

 

掲載日:2006.10.14

 


~現場回想記~I 邸(30代子育て中のご夫婦)   #10 木の家は100年の計

奈良県の製材所
奈良県の製材所にて

お施主さんと産地の製材所を訪問しました。身近な暮らしのことから、地球環境のことまで、少し踏みこんで考えてみることで、”木の家”への愛着は深かまっていきます。


今回も奈良県産のヒノキと杉で造る家です。木には人と同じように一本として同じものはありません。 良い環境でスクスクと育った木もあれば、風あたりの強い場所や、陽の当たらない場所で苦労しながら育った木もあります。人も木も性根はいろいろ、私のようにヘソが曲がったのもあります。 

法隆寺の棟梁、故西岡常一氏は、好んで癖のある木を選び組み合わせたそうです。その域には遠く及びませんが、製材所では現代の木挽き棟梁が、適才適所のマネジメントに奮闘しています。

以下は『木のいのち、木のこころ』(天)西岡常一著からの引用です。

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依頼主が早よう、安うといいますやろ。あと二割ほどかけたら二百年 持ちまっせというても、その二割を惜しむ。
二百年持たなくても結構ですっていうんですな。
ものを長く持たせる、長く生かすということを忘れてしまっているんですな。昔はおじいさんが家を建てたらそのとき木を植えましたな。
この家は二百年持つやろ、いま木を植えておいたら二百年後に家を建てるときにちょうどいいやろといいましてな。

二百年、三百年という時間の感覚がありましたのや。
今の人にそんな時間の感覚がありますかいな。
もう目先のことばかり、 少しでも早く、でっしゃろ。
それでいて「森を大事に、自然を大切に」ですのもな。

木は本来きちんと使い、きちんと植えさえすれば、ずっと使える資源なんでっせ。鉄や石油のように掘って使ってしまったらなくなるというもんやないんです。植えた木が育つまで持たせる、使い捨てにしないという考えが、ほんのこのあいだまでありました。
本来持っている木の力を生かして、無駄なく使ってやる。
これは当たり前のことです。当たり前のことをしなくなったですな。

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掲載日:2006.09.17

 

 


~現場回想記~I 邸(30代子育て中のご夫婦)   #9 契約会

契約会での職人とお施主さん
契約会での職人とお施主さん

見積もり収集が終わり、約4%の予算調整を経て、今日は主要な専門工事業者さん達とお施主さんとの契約会を行いました。ここで分割工事請負契約を交わします。

フローティング基礎は、通常の鋼管杭基礎に比べ、基礎工事全体で105万円ほどのコストアップとなり、採用は断念しました。


建設会社やハウスメーカーの一括請負の場合は請負契約書は 1種類2冊だけですが、分離発注の場合には契約する業者の数だけ(今回は11種類22冊)契約書を作ります。
各専門工事業者さんは、下請けではなくそれぞれが元請となります。ここから先は、建築士と施主だけの仕事ではなく、大工さんを中心にいろいろな職人さんが加わり、心強い限りです。10/中旬の上棟、来年2/末竣工を目指して、いよいよ現場が忙しくなります。


掲載日:2006.09.10



~現場回想記~I 邸(30代子育て中のご夫婦)   #8 工藝の道

       

今日は良書の紹介です。

民芸論の柳宗悦(ヤナギ ムネヨシ)が書いた『工芸の道』。民芸運動始まりの書と言われるこの本は、昭和2年の雑誌連載に始まり、昭和30年に初めて出版されたようです。

現代の避けようも無い資本主義、弱肉強食の世の中で、
著者の論の全てにうなずけるわけではありませんが、
『工芸』という言葉をそのまま『建築』もしくは『住宅』に置き換えて読み進むうち、柳 宗悦独自の美に対する見方、考え方が今日でも色あせていないばかりか、なおさらに新鮮に感じられます。

見るために造る美術の美と使うために造る工芸の美。

私が係わる住宅は実用に即した飾らない器でありたいとの
思いを強くします。

 

(以下、本文より引用)

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美よりも生活を救えよと人は云う、美は二義であると人は思う。だが生活が美に悖(もと)るなら、真の生活にも悖るのである。美は娯楽ではない。生活をして真の生活たらしめる大きな基礎である。

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掲載日:2006.08.19


~現場回想記~I 邸(30代子育て中のご夫婦)   #7 地鎮祭、見積もり開始

地鎮祭の祭壇を準備する神主さん
地鎮祭の祭壇を準備する神主さん

計画中のI様邸は実施設計を終え、見積もりに入りました。これからしばらくは、予算書との格闘です。


そんな中、今日は地鎮祭がありました。
今日の地鎮祭は神式で行われました。
(仏式やキリスト教式もあるようです。)
建売住宅などでは、地鎮祭や上棟式などの祭事を省略してしまうことも多いようですが、費用はかけなくても感謝の気持ちを込めて、何か行ったほうがよいと思います。


昔の人が家を建てるとき、森の木を伐り、木や草が生えている土地をならし、職人衆が集まり、礎石を据え、柱を立て・・・。
多くのものを頂いて家を造っていくという幸せに感謝の気持ちを込めて、山海の神々にお供えをして祈り、捧げました。家を商品とか耐久消費財と考えがちな現代では、形式的になったり、つい忘れてしまうかも知れませんが、
こんな気持ちを皆が持っている工事はきっとうまくいきます。大切にしたい文化です。


掲載日:2006.07.29


~現場回想記~I 邸(30代子育て中のご夫婦)   #6 模型

家づくり 模型
検討用の模型

設計中のI様邸は基本設計の最終段階で、白模型の製作に入りました。今回のI邸では、1/30とかなり大きめ。

手間ひまを惜しまずリアルな模型を製作します。
施主のためでもあり、設計者自身のためにもなります。

今回は縮尺1/30でかなり大きめにつくりはじめました。
(本当は1/10でタタミ1枚くらいのをもっとリアルに
 作りたかったのですが、作業スペースの不足であきらめました。)内部の造作までつくり込むので、延べ3日~5日かかる見込み。
模型を丹念につくると、物づくりの実感が沸いてきます。


掲載日:2006.05.27


~現場回想記~I 邸(30代子育て中のご夫婦)   #5 羊毛断熱材

羊毛断熱材
羊毛断熱材:ウールブレス

設計中のお施主様の希望で、羊毛断熱材について検討してみました。3年くらい前に一度、検討した時よりもかなり価格が下がっていました。今回は採用させて頂くことになりそうです。
羊毛を断熱材に使用してしまうのは、もったいないような気がしていましたが、価格が安くなっているのが以外でした。また、セーターみたいに虫に食われる心配もなさそう。省エネルギー等級4レベルの断熱性能でグラスウール24Kgと比べると、2.5倍くらいのコストで施工できそうです。以前は4倍から5倍くらいだったと思います。
しかも、良く伸びるので工事もしやすい。(タッカー釘で留めるだけ)


新聞紙からつくったセルロースファイバーもあらゆる面で
優れていて捨てがたいですが、こちらはグラスウール24kgと比べ、同レベルの断熱性能で3.5倍くらいのコストアップ。(価格に見合った性能はあると思います。)
どちらも吸湿性能が高く、気密工事を推奨しないところが気に入っています。


注)気密工事をしないと、品確法の等級4(次世代省エネ基準)には合いませんが、この基準がそもそもグラスウールを前提にしてつくられているので、これが全てとは考えていません。


掲載日:2006.04.23





~現場回想記~I 邸(30代子育て中のご夫婦)   #4 概算予算計画 

概算予算計画書
計画段階での概算予算計画書

基本設計中のI様邸で概算の予算計画に入りました。
建物の間取りや形が煮詰まってきたところで、可能な限りの積算をします。想定した構造材や仕上げ材、設備などを合計して建築費を割り出し、設計監理料や登記費用、水道加入金、引越し費用…などなどその他の諸費用も合計したプロジェクト全体の予算を算出します。
今回はあくまで間取りを優先して、構造材の見せ方から
仕上げまで、グレード変えて3パターンつくりました。
一番高い仕様と低い仕様とでは700万円以上の差額が生じています。要望と予算のすり合わせ作業はまだしばらく続きそうです。 

設計開始の時点で、お施主さんからご予算を教えて頂きますが、住宅展示場等のパンフレットから身の丈にあった豊かな発想など生まれてくるはずもなく、要望と予算はかけ離れています。 そのため設計の中で、住まいの重要性や社会性を再認識して頂いたり、経済観念を見直して頂いたり、暮らしについて、もう一度真剣な問いかけをする作業は、欠かすことが出来ません。 

 

掲載日:2006.04.07


~現場回想記~I 邸(30代子育て中のご夫婦)   #3 地盤調査   

地盤調査:スウェーデン式サウンディング試験
地盤調査:スウェーデン式サウンディング試験

基本設計中ですが、早めに地盤調査を行いました。このあたりは軟弱地盤が予想されます。もし地耐力が不足する場合には地盤改良工事が必要となり、予算計画に影響を及ぼすからです。

行ったのはスウェーデン式サウンディング試験(木造住宅程度の建物では、もっとも多く用いられる調査方法)。結果は予想通りの軟弱地盤で、支持層は10m位下でした。長さ11mの鋼管杭を36本打ち込んだ場合の杭工事費は約120万円。2階建延べ43坪の建物なので約2.8万円/坪のコストとなります。ここまで地盤対策に費用がかかるとなると、地盤置換工法も視野に入れるべきと考えました。単純に言えば、発砲樹脂の上に建物を乗せて、軟弱地盤の上に浮かせるという工法です。初めて聞いた人は驚きますが、土木の世界ではさほど珍しいことではありません。今後、実施設計完了の時点で見積もりを取り、結論を出す事にします。

掲載日:2006.03.31

 


~現場回想記~I 邸(30代子育て中のご夫婦)   #2  間取り   

間取り図
打ち合わせ用間取り図

今日も打ち合わせがありました。
思ったよりも間取りに関する意見がお施主さんから沢山出てきました。最初のプランをかなり検討されたようです。

早い段階から設計の手がかりが沢山出て来るのはありがたいことです。プランを修正して2週間後に再度打ち合わせをすることになりました。
徐々に的が絞れてくるとプランにも力が入ります。同時にお施主さんのほうは周囲の人達に相談し、意見を求めたりします。これは当然の事ですが、この周囲の人々の大部分は、先日書いた平均的住宅像を持っているから要注意です。せっかくのお施主さんの個性は次第に平均的なものになってゆきます。建売住宅やマンションの世界では、同じ面積でも部屋数が多いほうが売れるそうで、3LDKより4LDK、4より5・・。
目的別に部屋を区切るという事は、プライバシーは確保できますが空間の質を低下させます。細かな部屋が廊下に接続するという、旅館のような間取りを作ってプライバシーを確保する事が、家族の間にどこまで必要か(特に子供は)一度立ち止まって、考えてみたいところです。西欧の生活理念にある「プライバシー」が権利の主張なら、古来から日本の生活理念にある「遠慮」は、他人への思いやりや心づかいを育む。これは疑いようのない事実でしょう。
省エネという観点からは、少しの弊害はあるにせよ、家の中でのふれあいや心づかいから、隣近所へのそれにもつながっていく気がします。プライバシーという言葉に適当な日本語訳はないそうです。ご参考まで。

 

参考図書:

「日曜日の住居学:宮脇壇著」
「暮らしから描く快適間取りの造り方:吉田桂二著」

 

掲載日:2006.02.10

 


~現場回想記~I 邸(30代子育て中のご夫婦)   #1   間取り   

打ち合わせ用の間取り図で周囲の景色も確認
打ち合わせ用の間取り図

正月明けから、新しいお施主さんの設計に入りました。まずはお施主の要望通りに間取り図を作ってみる、間取りのパズル。要望の間取りが敷地に納まることは契約前の調査から分かっている。周囲の建物との位置関係や景色の見え方も確認する。
さて、ここからが重要で、近隣との関係も考えながら、どうやって施主の実生活引き出し、間取りに落とし込んで行くかだ。間取りは生活そのものを規定してしまう設計の中でもっとも重要な作業で、数ヶ月間かける。(ことが多い・・)ほとんどの施主の要望は、部屋数と設備に集中する。2階に子供室2つと寝室、1階にLDKと客間にする和室と水まわり・・。お決まりのパターンが施主の頭には刷り込まれている。この間取りが悪いとは言わないが、何故刷り込まれているか、本当に自分達もそれでいいのか、くらいは考えてみる必要があるだろう。そこで私は提案を始める。家づくりを機にもう一度、家族の生活や子供の教育、ご夫婦のあり方についてみつめ直してみませんか?と。施主のためになる本を読んでもらおうと貸し出したりもする。施主の家です。私が住むわけではありません。施主が決めるべきです。私たちに良い仕事をさせ、ご自身も満足されるのは、間違いなく自分の頭で考える方だと思います。 

                    

掲載日 2006/01/26