~現場回想記~K 邸
サーバー移転前のブログを再掲載していきます。
現場近くの桜は現在一分咲きといったところでしょうか。設計開始から約一年が過ぎ、「ながぬき庵」の完成が近づいてきました。登山好きな50代夫婦の終の棲家は、絶好の眺望と窓から見える丹沢の山並みのような屋根。樹齢120年の大黒柱に支えられたリビングは森の中を感じさせる癒しの空間です。
以下はお施主さんが贈ってくれた漢詩。
~廬を結びて人境に在り
しかも車馬の喧(かしま)しき無し
君に問ふ何ぞよく爾(しか)ると
心遠ければ地自ら偏なり
菊を采る東籬の下悠然として南山を見る
山気日夕に佳(よ)く飛鳥あひ与(とも)に還る
この中に真意有り弁ぜんと欲して已(すで)
に言を忘る ~
古詩十九首 飮酒 其五
訳:
隠遁して暮らす庵は、(それほど)人里から離れてはいない。(隠者は世間では人里から離れたところにいおりを結ぶそうだが、わたしは)人々が住んでいる俗なところに住まいを構えている。俗世間に住んではいるものの訪問客がしばしば来て、その乗り物の車馬の音が騒々しい、ということはない。どうしてそんなことができるのか。
心情、思想状況が超然としていれば(住む)地もヘンピなところになる。東側のまがきのもとで菊を摘む。
心はゆったりとして南山をながめる。
山の様子は夕暮れ時が美しくよい。
飛ぶ鳥が群をなして一塊りになって帰っていく。
この(自然の摂理の)中にこそ真実の姿がある。
言おうとしても、とっくに言葉を忘れてしまった。
掲載日:2009.03.27
K邸の現場回想記はこれにておしまい。
お施主さんと銘木屋さんに買い付けに行きました。それにしても、銘木(床柱や床框など)の値段はどうやって決まるのか? いつもは産地の銘木店の値段を見ているので、今回値段を見て、目ん玉が飛び出しました。
しかしまぁ、お施主さんもよく心得たものでバッチリ値切ってご購入。良い買い物ができたようです。
ながぬき庵は、躯体工事がほぼ完了し、そろそろサッシが届く頃です。この現場は秦野でも珍しく眺望の良い場所で、毎日の現場管理もピクニック気分です。お茶の時間は大工さん達と楽しくやってます。山好きなお施主さんの影響で私たちも登山に挑戦することになりました。これまでに骨董品好きのお施主さん、車好きのお施主さん、自転車とマラソン好きのお施主さんもおられました。良いか悪いか、私の趣味はすぐに施主に影響されます。従いまして、私はこれからしばらく「山岳部」ということになりそうです。
薪ストーブを設置するながぬき庵では、工事中の木くずを集めて薪にします。捨てれば処分費がかかります。無垢の木材の切れ端はほぼすべて保管しています。数万円の節約になるはずです。
それにしても集め過ぎました。こんなに集めたら保管場所がありません。急遽、一部を石焼芋と交換しました。焼き芋屋さんも助かり、こちらも助かりますが、焼き芋屋さんがあまりに沢山くれるから、今度は芋が多すぎました。
掲載日:2009.02.9
今日は東京タワー開業から50年目の記念日だそうで、当時の困難を極める工事の様子をテレビで見ました。日ごろパソコンでの設計やクレーンでの現場作業に慣れきっている私としては、やや後ろめたいような気分になります。現代の私たちがコンピュータとクレーンなしでやれるでしょうか。
敷地と道路に2mの高低差があり、しかも建物形状が複雑で工事が大変だ。などと言っていては叱られそうです。
「ながぬき庵」は年内にすべり込み、夕暮れにすべり込みでなんとか上棟しました。関係者の皆様、大変お疲れ様でした。近隣の皆様、大変お騒がせ致しました。
夕方頃からまた寒くなり、降って来た雨も丹沢では雪に変わったようです。
掲載日:2008.12.23
雨で一日延期になりましたが、基礎ベースのコンクリートを打設しました。上棟までの間は毎日の天気予報が気になります。職人さんも高齢化が進む中で、若手バリバリの鳶さんコンビは頼もしい存在です。なんでも現在30歳で同級生だとか。工事写真を撮ろうとカメラを向けるとカメラ目線になるようなので、二人並んでもらって撮りました。
コンクリート試験を行いました。木造2階建住宅ですと試験を行うことはまだ少ないようですが、これからは増えてくるのかも知れません。スランプ値、空気量、塩化物量を現場で確認し、圧縮強度試験のためのテストピース採取を行いました。
掲載日:2008.12.08
夕暮れが早くなり、この季節の現場作業は16:30には片付けが始まります。一日が短いですね。
今日は午前中で鉄筋加工が終わり、私も手伝って現場に搬入。組み合わされた鉄筋の重みはかなりのもので、いい汗かきました。そして、さぁ組もうかという時、あばら筋の加工寸法が間違っていることが発覚しました。どうも工場加工分のようです。
基礎外周のあばら筋が5センチ長い。全部で197本。このままでは基礎上端のかぶり厚さが全然足りません。鉄筋の工場加工は早くて便利ですが、ひとつ設定を間違えたら全部NGですからね。親方が工場との打ち合わせで間違えたか、工場が間違えたかは定かではありませんが、明日また加工してもらうことになりました。
写真はがっくりと肩を落とす鳶のW君。あなたが悪いわけじゃありません。誠実に対応してくれて、どうもありがとう。早く気づいてよかったですね。
また明日頑張りましょう!
掲載日:2008.12.03
ご近所の皆様、大変お騒がせ致しました。
ながぬき庵は地盤改良工事が完了しました。建築工事前にご挨拶には伺いましたが、朝から25トンのクレーンや地盤改良マシンが現れたので、驚かれたことと思います。敷地が道路より2Mほど高いので、重機を上げるのにクレーンが必要なのです。それにしても25トン車は大きいですね。もうこんなに大きいのが来ることはありませんのでご安心ください。
今回は「アースコラム工法」。直径60センチの穴を掘って、セメントと土を混ぜながら、柱状の杭を地盤に埋め込んでいきます。基礎梁の設計を考えながら、柱軸力の大きな箇所の下に来るように改良体を配置していきました。地盤改良会社さんから提示される配置案を少し修正した形です。
掲載日:2008.11.08
奈良県の製材所からスギとヒノキの構造木材が15トントラックで到着しました。一旦、造園屋さんの資材置き場に荷卸して、一部を大工さんが手加工のあと、4トンのユニック車で数回に分けて現場に搬入します。
待ち構えていたクレーンと大工さんとトラックの運転手さんと私で約1時間、まずはつつがなく荷卸完了。
丸太の写真は今回のヒノキ大黒柱に大工さんが芯墨を打ったところ。重さは約300kgありました。年輪の数を数えてみると125個までは数えられました。伐採してから何年か寝かせてあったらしいですが樹齢125年とすると、この木が生まれたのは1883年(明治16年)ということになります。その頃の日本は日清・日露戦争が勃発したり、鹿鳴館が落成した時代です。なんの因果か2008年からは「ながぬきの家」の大黒柱を勤めることになりました。この柱は5本の梁を受けとめますから、山に立っていた頃よりも大変かも知れませんね。
いつかこの家が解体される時、次の時代の人がこの木にまた新しい役割を与えてほしいと思います。
掲載日:2008.12.13
構造設計も佳境に入り、構造V/Eの検討と構造再計算の打ち合わせを行いました。左の画像は構造設計の過程で制作していった架構モデルです。
この敷地では擁壁の周囲で地耐力が不足し、セメントソイル方式での地盤改良を予定しています。通常、木造住宅規模ですとこの地盤改良と基礎を切り離して設計することがほとんどですが、鉄筋の高騰が著しい昨今、必要以上に基礎に余力を持たせるのは、とてももったいないお話です。今回はこの余力の部分がかなりのコストアップ要因となっていました。
鉄筋の値段が数年前の倍以上になっているようで、40万円ですんだものが80万円超になるわけですから、少々の設計費用をかけてでもVE検討する価値は充分にあります。基礎工事の手間も省けますし。
当初は基礎を頑丈に造って、地盤改良を軽減できないものかと考えてましたが、この方法ですとどうしても鉄筋、コンクリートとも量が多くなります。そこで考え方を変えて、地盤改良を全面的に採用し、基礎の立ち上がり(基礎梁)部分を現状より補強、ベース部分はシングル配筋にするなど軽減して再計算することにしました。
改良体があるので、砕石も薄くします。コンクリート量はさほど軽減できませんが、砕石、鉄筋量はかなり軽減できそうです。木造住宅の構造設計を侮る無かれ!
V/E:ヴァリュー・エンジニアリング:
機能を下げないでコストを調整したりすること。
掲載日:2008.10.26
今日は薪ストーブの最新情報を調べました。
コツール、バーモントキャスティング、ダッチウエスト・・・が3強といわれるメーカーです。
以下のサイトを見つけました。
■Flame Watchers
http://flamewatchers.com/
暖炉や薪ストーブは使いこなすのに手間隙のかかるもの。このサイトの中では、登山やサイクリングに例えて薪ストーブを語っていました。
便利さや安さを追求するなら、山に登る必要などないし、用もないのに自転車で遠出する必要もない。薪ストーブは手間隙かけることで火を見守るときの心の平穏を得、冬を楽しむための実用的なレジャーなのであると。
実用的にはもちろんのこと、リビングでの無為の時を充実させるためにも、薪ストーブや暖炉は伝家の宝刀です。
建築側の工事も必要ですので、やはり新築時の設置が理想的ですね。二重煙突が壁を貫通する場合には以外に大きな穴が必要ですよ。
手間のかかる薪ストーブが冬のレジャーなら、丁寧に住まいをつくることは人生のレジャーと言えるでしょうか。
掲載日:2008.03.24
※写真は完成後に撮影したものです。
※本文を一部編集しています。
地盤調査に立合いました。
現在は造成されていますが、国土地理院発行の土地条件図によればこの現場は地形区分上は「斜面」に分類されます。造成から約2年が経過してはいるものの、鉄筋コンクリートの擁壁付近は、地耐力が出ませんでした。
まだ基本設計のまっ只中で、間取りや建物の形が決まった段階ですが、ここで得られたデータは今後の実施設計や予算計画に反映していきますから、設計の初期の段階で地盤調査を行うことは、設計者にも施主にも大切な手順です。
よく聞く地盤保証とか建物の10年保証。
私も分離発注で施工するときはかけています。ここでよくお施主さんは勘違いして、10年間は何があっても保証されると思ってしまうようです。しかし、この保証というのはあくまで瑕疵についての保証です。行った地盤調査や地盤改良、建物の施工について保証内容に該当するような瑕疵(いわば失敗)があった場合に保証しますといっているだけのこと。地震や台風で地盤や建物が破壊した場合には免責なのです。
「俺の家は○○の10年保証がついているから大地震が来ても安心だ!」などという思い込みをしてませんか?
本当に安心したいなら、設計と監理をしっかりやって、丹念に工事記録を残し、完成後は火災保険や地震保険をかけるくらいしかありません。もちろんこの保険とて完璧ではありませんが。
掲載日:2008.06.01
新しい依頼主(候補)の敷地を下見してきました。
市内の市街化調整区域際の某所。高台で景観が良く、調整区域のためこれ以上建物が建つ心配もない、とても静かな敷地でした。晴れた日には富士山も見えるそうです。
この土地を買われたのは50代くらいのご夫婦。すでに住まいの構想はかなり練られており、模型までご自分で作っておられました。それもそのはず、ご主人は大手ゼネコンにお勤めとのことでしたから、模型くらいは朝飯前といったところでしょうか。
今回はたまたま建築士同士で話が早いですが、その分を割り引いても、私達との付き合い方が上手な方とお見受けしました。これは何も難しいことではなく、要するに人と人が相手の立場で考えられるかどうかですよね。
【住まいのつくり方―建築家といかに出会い、いかに建てるか】(中公新書)
プレファブや建売住宅に満足できない方は是非読んでみてください。
掲載日:2008.03.06